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農村からの手紙

No.153(2006.06.03)


本日、パソコン内の不要なデータの削除をしていたところ、ワープロから移した文書ファイルをみつけました。

約10年前に作成したものです。

当時既にマックを使ってはいたものの、音楽製作専用機としてでしたので、文書作成にはシャープのワープロ書院を用いていました。

まだインターネットを利用してもいなかったし、拙サイトを開設する以前の文章です。

某雑誌の取材で東京在住の友人が私の田舎暮らし体験を取材に来ることになり、その友人が予備知識を必要としていたので送った手紙です。

ここんとこ当コーナーの更新が滞っているのが、この文章をリユースさせていただく理由す。(失敬)

長文ですので、田舎暮らしに興味のある方のみ、お読みくださいませ。

以下、手紙より引用開始。

前略

ご無沙汰していますが、お元気ですか。

突然ですが、実は今度鹿児島県の方へ引越をすることにしました。

僕自身は2年ほど前からずっと引越したいとは思っていたのですが、地域にすっかり溶け込んでしまっていたのでなかなか踏ん切りがつかず、ここへきてやっと決心したという感じです。

「どうして?」と聞かれても、色々な要因があるので一言で答えることは難しいのですが、あえて一番大きな理由をあげれば、それは地域社会の慣習や人間関係がうっとうしくなったからです。

と答えても、「そんな問題はどこに行ったってあるんじゃないの」と切り返されてしまいそうですね。

確かにその通りです。

むしろ問題は、田舎の農村社会についてあまりにも無知だった僕の方にあるのでしょう。

恐らく東京育ちの○○さんも僕と同様ではないかと思いますのでそれについて説明します。

普通都会に住んでいる人間が「田舎暮らし」と聞けば、ゆったりとした時間の流れを想像するでしょう。

田舎では何をするにも、その速度が遅いという傾向があるという意味では善くも悪くもそれは事実です。

しかし、それでは都会に居るより自分自身の生活に時間的精神的余裕がもてるかというと、それがまったく違うのです。

こちらに移住した当初は、何もかも初めて経験する事ばかりでしたし、方言もほとんど意味が分からないという不安な状態でした。

そういう状況で、ここではどういう仕組になっているのかを早く理解しなくてはと焦っていましたので、仕組自体に疑問をもつことはありませんでした。

ただ、東京育ちの僕にとっては、それらが新鮮に感じられました。

そしてそれから2年、3年と月日が経ちこちらでの生活にも慣れ、また地域社会の大体の仕組が分かってくると、その不合理性や無駄の多さが気になり始めてきました。

そうなると何故こういうやり方をしているのかという理由やこうなるまでの経緯を知りたくなり地域の人達に聞いてみました。

その答えを集約すると「今までこのやり方で続けていて特に変える必要がないから」ということになります。

ところで、仕組と言っても何のことかさっぱり分からないといけないので具体的に説明します。

僕の経験から推察するとそれらの源流は2つに大別されます。

1つは地方行政の末端で本来行政が行うべき事が各地区住民に割り当てられている為に生じる、都会では考えられない地区住民の負担。

もっとも地域の人達は他での生活をほとんど知らないので当然だと思っているようです。

もう1つは、農業が機械化される以前に近隣住民の協同農作業が多く、住民の相互依存度が高かった頃から続いている相互扶助的な仕組です。

前者は上から、後者は下からの要請で生まれたとも言えますが実際にはそれぞれの仕組が両方の要素を併せもっていることが多いと思います。

全容を説明すること、またそれを理解してもらうのは難しいと思うので、仕組をいくつか例示しましょう。

まず、地区は昔からの農村集落が土台になっています。

また行政の側、町役場の方でも便宜的に行政区という区分けをしています。

これは集落をそのまま行政区とする場合と、複数の集落を併せて1つの行政区とする場合(僕が居たのはこちら)とがあります。

そしてほとんどの集落や行政区に、いわゆる「公民館」があります。

この公民館が地区活動の拠点になり、下部組織として老人クラブ、婦人会、青年団、壮年部、親子会など(各公民館で名称は多少異なる)があります。

そして、それぞれの組織に「長」の付く役職や会計などがいて、様々な活動をしています。

ただ、活動の中心になっているのは行政の音頭取りによる各種行事への参加や、または本来行政がするべき仕事の一部を引き受ける事です。

もちろん自主的に自発的な活動をしている組織もありますが、それは極めて少数派ですし、また、そのような組織内での自主的活動の占める割合は低いです。

また運営には資金が必要ですから、優良な活動ほど経済的理由で行政に取り込まれてしまいます。

では実際に僕が経験した役職ですが、まずこちらに来て2年目に「納税組合長」をしました。

これは各集落がそれぞれそのまま納税組合になっていてその実務のまとめ役です。

手順としては、まず町の担当職員が各行政区長(公民館長、納税組合長と兼任の場合もある)の自宅にその地区のサラリーマン以外の納税者の納税通知書と納付書を配送します。

それが納税組合長に回って来ます。

次に組合長は通知書だけを各班長に配ります。

班長とは、各集落が戸数に応じていくつかの班に分かれているのですが、その代表で多くの場合1年交代の回り当番制です。

僕も7年8カ月の間に2回しました。

今度は班長がそれを各戸に配り数日後に集金し、それを組合長に届けます。

組合長はその金と全員の納付書を持って金融機関で払い込むのです。

要するに各戸が口座自動引き落としなどでそれぞれ納付すればまったく必要の無い仕事です。

東京ではサラリーマンをしていた僕には、何でこんなやり方をしているのか分かりませんでした。

しかしそれには2つの理由がありました。

1つは行政側からみて地区の連帯責任にして、必ず納税させるためで、期日までに納付すればご褒美として報奨金が組合に与えられます。

それは個人個人が使うことは禁じられていて地区の行事の経費などに充当します。

もう1つは、地区内の都合です。

それは、農家の場合時期によって現金が手元にあまり無い事があり、そういう時に毎年の報奨金を貯金しておき、そこから一時的に税金を立て替えておくのです。

また、その貯金の中から組合長に手当が支払われます。

合理的に考えれば、立て替えてもらう必要のない人は全員口座引き落としにしてしまえば仕事量は激減するので、手当を払うほどの役職は不要になりますし、それでも報奨金は同様に支給されるので、その方がずっと良いのですが、そう簡単にいかないところが田舎の難しいところです。

以上、引用終わり。

ふぅ~っ、やれやれ。

っと、今ため息をつきましたね。(苦笑)

続きがあったとしても読みたく内容!ってとこか。(笑)

次回は体験談になりますので。(予定)


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