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国民の水準 (選挙戦の実態)

No.99(2002.10.21)


東京に住んでいた頃は国政選挙があるたびに、どの候補者に投票したってどうせ何も変わりっこない、という無力感がありました。(だからといって棄権はしていませんでした。念のため)

と同時に何故選挙に出馬する際に大金を必要とするのか、その理由も判然としませんでした。

その後農村地帯に移住して実際に地方の選挙戦に接して、選挙資金の情けない使い道を知ることになりました。

その頃はまだ中選挙区制で、国会議員が選挙区において冠婚葬祭時などに金品を出すことを制限する法改正が成された時期だったと思います。

当時近所の酒屋のおばちゃんが、その法改正のせいで売上が何割だか減ったとぼやいていたことをよく覚えていますから。

よそ者の私は当然どの候補者の後援会にも入っていませんでした。
にもかかわらず、集落として投票すべき候補者が決まっているらしく、後援会の地区委員と思しきご近所さんが候補者の選挙カーが我が地区に来る日時と場所を連絡してきました。

その候補者は当選回数が多く入閣した経歴もありながら、前回の選挙では口が災いして落選してしまったために、今回は復帰をかけて背水の陣で戦っているのでした。

数日後に同じ人から今度は隣りの地区の公民館でその候補者を励ます会があるので参加するよう促されました。

当地は実質的に自由民主党の候補者以外に選択肢のない保守天国なお国柄でしたし、なおかつ個人的に応援したい候補者もいなかった私は、興味本位で行ってみることにしました。

公民館に入るとまず受付があり、会費500円は後ほど徴収します、と言いながら500円分の領収書をその場で渡されました。

会場には150から200席くらいが設けてあり、それぞれの席には既に仕出し弁当がありました。

その弁当はそれほど豪華ではないものの、どう見ても500円では買えない代物で、それまでの経験から800円から1,000円くらいと察しました。

即座に、そうか全額候補者負担だとまずいので500円分だけ参加者の手出し(自腹)扱いにするんだ、と思いました。

後援会支部長の選挙戦の現況報告の後に候補者本人が簡単な挨拶を済ますと、すぐさま飲み会に入りました。

ビールも焼酎も飲み放題状態で、この酒代はどっから出ているのだろうという疑問を感じつつも、一緒に盛り上がって飲んでしまった私でした。

ふと気付くと候補者本人が参加者全員にお酌して回るという「おやじコンパニオン状態」になっているではありませんか。

順番に私のところまで来たので、注いでもらう際に思わず表情を観察してしまいました。

顔は笑っているのに目が笑っていないコメディアンをしばしば見かけますが、この候補者の笑顔は本物に見えました。

内心何を考えているか分からないのにそれを感じさせないのは凄い、さすが政治家、と妙なところに感心しました。

さて、ご想像通り帰る時にも、また後日にも500円の徴収はありませんでした。

要するに候補者が支持者にただ酒ただ飯を飲ませ食わせしたわけです。

会場には女性は一人もいませんでしたから、おそらく(田舎の約束事として)家長が集まっていたものと思われますので、全支持者に飲食の提供をしたのではありません。

それでも当選するためには万単位の票は必要でしょうから、単純計算すれば飲み食いさせるだけでもかなりの金が必要だということになります。

この現状は公職選挙法をどう改正しようとそう簡単に改められるものではないと実感しました。

現大統領が選出される過程でどたばた劇を演じた民主主義を標榜する「先進国」アメリカ合衆国は、世界中の笑い者になりました。

残念ながら我国の「国民の水準」も、それを手放しで笑えるほどのものではありません。


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