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農村で暮らす (20)

No.76(2002.03.14)


獅子舞の晴れ舞台はもちろん祭りの最中で、衆目をあつめるので張り切ります。

ところで実は舞い方の男衆の楽しみはもう一つあるのです。

それは祭りが終わった後で集落の各戸を舞って回りご祝儀をいただくことで、その晩にはそれを元手に街に繰り出して打ち上げの飲み会です。

昔からの恒例になっているようでした。

私が幼少時に東京にいた頃、門や玄関に貼ってあった「獅子舞お断り」という札をよく目にしました。
当時親からそれがやくざの資金源になるからだと聞かされた記憶があります。

そんな経験から私の中で獅子舞は押し売りに近い悪い印象しかありませんでした。

ですので一軒一軒舞って回ると知った時には行った先の家人にどう対応されるのか心配でした。

ところがいざ始めてみると意外にもどの家も喜んで迎えてくれましたし、ご祝儀もあらかじめ用意して楽しみに待っている家の方が多いくらいでした。

獅子舞に来てもらうのはめでたい縁起の良いことだと素直に喜ぶ善良な庶民的信仰心がまだ残っていると感じました。

地元出身者の結婚式が祭りの日と重なった際に結婚式場まで招かれたことさえありました。

当時獅子舞の当番は2年交代でしたから、1回経験した後の2年目は当然さらに上手く舞えるようになります。

さらに1年目で良い思いをしているので祭り後の家回りの要領の良さにも磨きがかかってきます。
飲み代のためならと腕が上がらなくなるまで日が落ちて薄暗くなるまで回り続けたものです。

ところで祭り本番の時には有資格者の宮司の下に仕える数人の社人と呼ばれる人たちの楽(がく)に合わせて舞います。
楽器としては太鼓、篠笛、手拍子(とびよし)と呼ばれる小さなハンド・シンバルの3つからなります。

しかし祭り後は総勢6人の舞い方だけで家回りをしなければならないので、普通はそのうちの一人か二人が太鼓の叩き方も併せて覚えることになっていたようでした。

ところが私の初体験の年には、師匠から筋が良いと言われた私一人が太鼓担当ということになってしまいました。

楽器演奏が大好きな私は喜んで引き受けました。

このことが後々新たな展開に至るとは思いもしませんでした。


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