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買わされ癖

No.16(2002.09.10)


前回取り上げた即席ラーメンのテレビ・コマーシャルを初めて放送するのに際して外野からは、そんな単価が安い商品に高い広告宣伝費をかけても元が取れない、という否定的な意見が多かったそうです。ところが実際の結果はそんな大方の予想を裏切るものでした。

なんと商品の実売数が年間で億食単位だったのです。

これが突破口になったのかどうかは広告業界の歴史に疎い私には分かりませんが、私の子供時代には既にお小遣いで買える安価なお菓子などのテレビ・コマーシャルはもはや主流になっていました。

それでも当時の東京には「新しいもの好き」の人間は周囲から密かに嘲笑されるような風潮がまだ残っていました。

あるものが良いか悪いか価値があるかないかを吟味するためには時間、長い年月が必要だという日本人としての暗黙の了解があったからだったのでしょう。

その後一世代以上に渡ってあらゆる業界からの新製品攻勢にさらされ続けた結果一部の趣味人達を除けば「新しくなければ駄目」というのが普通になってしまっている、ように私には思えます。

私は農村で暮らしていた8年間にテレビ放送をまったく見ませんでしたし、車で30分以内に行ける範囲にスーパーマーケットや百貨店はあったもののコンビニエンス・ストアは一軒もないという環境でした。

当然その間に宣伝に踊らされて商品を購入することは皆無でした。

現住所は山の上で不便と言っても車で20分ほどのところに全国展開しているコンビニエンス・ストアが何軒もあります。そして越してきた翌年から1日1時間半ほどテレビの民間放送を見るようになりました。

住環境の変化と幼い時にすり込まれた習性のためか、工業製品の品質が悪いことを知っているのにテレビの宣伝で知ったコンビニエンス・ストア開発の食品や新種のカップ麺を数回買ってしまいました。

そんな馬鹿げた行動のお陰で、宣伝では素材を厳選していることになっているはずのコンビニエンス・ストア開発の食品がいかにインチキで素材の味などしないことや、誕生当時はそれを食した後は6時間くらい食欲がなくなるくらい油っぽかったカップ麺は私の予想に反して当時より質が向上していることを体験を通じて知ることができました。

その後はさすがにテレビの宣伝を見て新製品を買うことはなくなりました。

成長期に潜在意識に働きかけられ買わされる経験を繰り返したために身についた「買わされ癖」はそう簡単に直らないということなのかもしれません。

そんなこんなで基本的にテレビの民間放送は見ないという方針に戻してからもうすぐ一か月になります。

よく考えてみればニュースなどの情報でも最新のものが正しいとは限りません。もちろん誤報は論外としてです。むしろ真実は長い年月が経った後に明らかにされてきたという歴史上の事実があります。

新製品に限らず「新しいもの」に接する際にかつては働かせていた日本人の常識、知恵を取り戻せば「買わされ癖」を克服できるような気がします。


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